マダムバタフライ(蝶々夫人)

歌劇「マダムバタフライ」

ジャコモ・プッチーニ(1958〜1924)が明治初年の日本を舞台に「ボエーム」「トスカ」に続いて作曲したオペラ。
1940年2月17日、ミラノのラ・スカラ座で当時36歳のトスカーニの指揮で初演した。
原作は1897年、明治30年アメリカの弁護士で小説家ロングが「センチュリー・マガジン」に発表した小説に基いて、アメリカの劇作家で劇場主でもあったベラスコが脚色した戯曲(1900年)によるもので、「トスカ」のロンドン初演のためにロンドンに渡ったプッチーニが、ここでこの舞台に接して歌劇化を思い立ち、「ボエーム」や「トスカ」の台本を作ったジャコーザとイッリカに台本を依頼して作曲した。
曲中にはアメリカ国家のほか、当時のイタリア駐在で大山公使夫人の助力で「君が代」「さくらさくら」「越後獅子」「お江戸日本橋」「宮さん宮さん」などの旋律が取り入れられている。

第1幕

長崎の入り江をはるかに見下ろす山の手。ぬれ縁をめぐらした家の庭先。中央の池がある。結婚仲介人ゴローに導かれてアメリカの海軍士官ピンカートンが登場。ピンカートンにとって日本の家屋は物珍しいことばかり。ゴローは得意になって家の造作を説明する。ピンカートンは乗艦のエイブラハム・リンカーン号が長崎に寄港したのを機に、ゴローの仲介で可愛い日本娘・蝶々さんと結婚しようと家を買い求めた。
やがて長崎駐在のアメリカ領事シャープレスが汗をふきふき坂道を登って来る。彼はピンカートンガその結婚に誠意のないことを知って、思いとどまらせようとするが、ピンカートンは「アメリカの船乗りは港々で気ままに恋をするのさ」とグラスを手に「アメリカ万歳」を叫ぶ。
そこへ坂の下から明るい娘達の歌声にまじって蝶々さんの歌う声が聞こえてくる。友達を従えて岡の上に着いた蝶々さんは、シャープレスの問に答えて身の上話を始める。昔の金持ちの家に生まれた蝶々さんは、家が没落して芸者に出されたのであった。年も15歳と聞いてシャープレスは、美しさを讃えながら同情の言葉を口にし、ピンカートンは幸福な満足感に浸る。
ほどなくして役人や書記たちが到着、結婚式の準備が始められる。優しく花嫁の傍に寄ったピンカートンに、蝶々さんは自分が大事に持って来た身の回りのもの、先祖を祀る仏像、父の形見の短刀などを見せながら、昨日、親類には内緒で教会にお祈りに行ったことなどを語る。
やがて家の奥から服装を整えた役人が登場、結婚式が始まる。一同が神を讃え、二人の幸せを歌っている時、突然、蝶々さんの伯父にあたるひとりの僧侶が荒々しく登場、先祖の信仰をを棄てた蝶々さんの行為をなじり、親類の縁を絶って人々をひきつれ退場する。その場に泣き伏した蝶々さんは、ピンカートンに慰められ、家に入って小間使いのスズキの手を借り夜の粧いを始める。

第2幕

蝶々の家の中。蝶々さんがピンカートンと愛の巣を営んでから3年が過ぎ、その間にピンカートンの乗った軍艦はアメリカに帰り、蝶々さんは愛らしい男の子を生んだ。
しかし、ピンカートンガアメリカに帰ってからというもの、なんの音沙汰もなく、スズキは彼の愛情に疑いを抱き始めている。しかし、蝶々さんはあくまでも彼が再び帰ってくることを信じて、アリア『ある晴れた日に』を歌う。
蝶々さんのこの愛らしい夢にも拘らず、結婚仲介人のゴローは、ピンカートンがアメリカに帰るなり、蝶々さんを金持ちヤマドリ公の妻に世話しようとして彼女にしつこくつきまとい、その都度、鋭く断られている。ゴローに連れられてやって来たヤマドリ公は、蝶々さんにめんめんとした想いを述べるが、すげなく追い返されてしまう。
そこへ領事シャープレスが、ピンカートンの手紙を持ってやって来る。その手紙にはアメリカで正式に結婚したから蝶々さんにその旨うまく話しをしておいてもらいたい、という意味の事が書いてある。シャープレスが迷いながら、辛うじてそのことを伝えると、怒った蝶々さんはピンカートンとの間に生まれた子供を見せて涙ながらに訴える。
シャープレスが彼女に同情の言葉を与えて別れを告げたあと、突然、港の方から軍艦が入って来たことを知らせる大砲の音が聞こえる。
蝶々さんが望遠鏡を手に港の方を覗くと、それは忘れもしないピンカートンの船エイブラハム・リンカーン号。驚き喜ぶ蝶々さんは、早速スズキに手伝わせて庭中の花という花を摘み取り、部屋一杯に撒き散らす。
そして結婚式の日と同じ装いを身につけ、障子に3つ、小さな穴を開けてピンカートンの来るのを待つ。夜も次第に更けて、淡い月の光が障子に3人の美しいシルエットを描き、はるかに遠くからは清らかなハミングの合唱が聞こえてくる。

第3幕

第2幕と同じ蝶々さんの家の中。ピンカートンの現れるのを待つうち、障子の前でうたた寝をしてしまったスズキがふと目を覚ますと、蝶々さんは昨夜と同じ姿で小さな障子の穴から港を見つめている。
スズキが蝶々さんと子どもを奥に寝かせたあとへ、シャープレスがピンカートンを連れて来る。部屋一杯に撒き散らされた花を見て、ピンカートンは深い後悔の念に沈む。スズキがふと庭先を見ると、そこにひとりのアメリカ婦人が立っている。スズキとシャープレスが、予期したとおりの出来事にピンカートンを責め、『愛の家よ、さようなら』と別れのアリアを歌って駆け去る。
そこへ目を覚ました蝶々さんが奥から走るように出て来るが、そこにいるのは待ちわびたピンカートンの姿ではなく、涙を一杯浮かべたスズキとシャープレス。それに見知らぬひとりのアメリカ婦人。事の一切を悟った蝶々さんは、人々をそこから立ち去らせ、ひとりきりになって父の形見の短剣を取り出し、そこに刻みこまれている銘を読む。
そこへスズキに押し出されるようにしsて、突然、蝶々さんの子どもが入ってくる。蝶々さんは子どもを抱き上げて涙ながらに別れを告げ、そして自分は屏風の陰にまわり、短刀で自害する。
その時、遠くから彼女の名を呼びながら近付いて来るピンカートンの声が聞こえてくる。苦しい息の下、屏風の陰から這い出した蝶々さんはその声を聞きながら、目隠しをされたまま無心に遊ぶ子どもに近づこうとするが、遂に力尽きてその場に息絶える。

(「歌劇 蝶々夫人」NHK編 日本放送出版協会発行より)